新宿西口の飲み屋街。今では「思い出横丁」なんていう洒落た名前が付いているが昔はしょんべん横丁と言っていた。その中の一軒に「若月」はある。昔のラーメン本を眺めてみると2000年前後のものにはたまに載っている。しかし最近のには載ってない。私が監修してラーメン本を出すとしても載らないであろう。嫌いだからではない。好きで何度も来ている店だ。「今」の人が知識無しで食べに行って「今風」のラーメンと比較しても苦言しか出てこないと思うからだ。
そういう店ではあるが最近出たサニーデイサービスの田中貴さんのラーメン本「Ra:」には大きく取り上げられている。正直、「やられた」と思った。「若月」に限らず、この本の構成と内容に嫉妬した。逆にこういう本だからこそ「若月」は生きてくる。この日もカウンターのみの狭い店内に椅子はバラバラに並んでいる。19時過ぎだったがほとんどの人がビールを飲んでいる。その半分は焼きそばがつまみだ。
右隣のおっちゃんは「巨人の監督は誰になると思う?高橋かね?」と店主に聞いている。店主は「松井とかどうなのよ」と答えながらも他の人の注文を聞いたり、時折焼きそばを炒め直したりしている。今どきラーメン店で次の巨人監督の話題はなかなか出ない。ブロガーあるいはレビュアーが「この麺は全粒粉ですか?製麺所はどこですか?」なんていう会話が店主と交わされるくらいだ。
かと思えば、左隣ではインタビューがおこなわれている。一番奥に居た常連の主みたいな人に英語を話す人の通訳で日本人が間に入り、何かを聞いていた。すると驚いたことにその常連さんは流暢な英語で返答したのだった。それはちょっと私も想定外。千円前後で飲んで食って、ができる店に流暢な英会話をできる人が・・・。そういや、この思い出横丁には外国人が増えた。この店に来るまでに何人もの外国人とすれ違った。他にも取材クルーも居た。そんな横丁になっていたのだ。
そんないろんな想いが交錯しながら私は480円の自家製麺のラーメンを啜っている。私が会津から出てきて、東京でいろんな麺と出会ったが、ここに来た時に懐かしさを覚えた。細かく言うと随分違うのだが会津のラーメン(喜多方含む)の麺に似たところがあるのだ。手打ち風の太めで手揉みしている麺。私はこういうのがたまらなく好きだ。子供の頃にこういう麺をよく食べたからであろう。スープも具材も飾り気のない「普通」を絵に描いたようなルックス。そして480円。餃子やビールも頼まないと申し訳ない気分だ。ゆっくりスープを飲みながら、「次は高橋か松井なのか?江川はまだなのか?」と普段なら滅多に考えないことを考えてみた。監督の答えは出なかったが、またしばらくしたら焼きそばを食べに来てみようと思いながら店を後にした。
















