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2023年2月12日の大崎裕史の今日の一杯

東京都千代田区飯田橋

ちゃあしゅうそば

1976年創業、46年の営業を続けてきた老舗中華そば店「支那そば びぜん亭」がこの3月31日で幕を下ろす。明大前の人気店「中華そば きび」という弟子を輩出している名店である。飯田橋駅から徒歩3-4分。坂を登り、商店街からは少し離れたところにひっそりと佇む小さなお店。しかし、周辺のサラリーマンやご近所さんでいつも賑わっている。ラーメンの懐かしいおいしさもあるが長い間、続けてこられたのは創業店主と奥様の人柄も大きい。店名からわかるように店主は岡山出身であるが、作り出されるラーメンは東京を代表する中華そばと言っても過言ではない。昭和を感じさせるあっさり醤油味のスープ、柔らかめに茹でられたやや細めの縮麺。そして人気のとろっとろに柔らかい、溶けるようなちゃあしゅう。私はこのちゃあしゅうが好きで連食中でも「ちゃあしゅうそば」(850円)を頼むことが多い。仕事柄、新店を食べ歩くことが多く、斬新でインパクトのあるラーメンが続くことが多いが、そんな時、不定期にこういうラーメンを食べたくなって寄ることが多い。いろんな感覚をリセットしてくれる。
毎朝店主がその日の分のスープを仕込み、寸胴に火を付けているので昼の部よりも夜の方が若干味が濃いめになるという話もあるが、私が行くのはほとんど昼なのでそれを確認できたことはない。普段は、注文するとお猪口に小梅を出してくれる。それを食べて口をサッパリした上でラーメンを食べるのがいい。それと開店間もない時間に行くと小梅ではなく、炊き込みご飯の俵飯が出てくる。これも嬉しいサービスだ。なんかこう、実家に帰ってきたかのように「おかえりなさい」と言われている感じだ。仕事でストレスが溜まっているときなどはこれだけで涙腺が緩んでしまうほど。店主の常連いじりは悪口でも辛口でもなく、常連だからこそできるやり取りが羨ましい。私も随分食べに来ているが、まだそんなコミュニケーションを取れるまでには至らない。夜はお酒を飲みながらゆっくりしていく人も多いようだ。これもまた常連さんの特権と言えるだろう。最近の店主は髭を蓄え、まるで仙人のような風貌。それもラーメンに味を加えている。最近の若い店主が作る先端のラーメンも素晴らしいが、独学ながら「これが俺の作ってきた味だ!」と胸を張れるラーメンだからこそ、味わい深い。
食べ終えて「ごちそうさまでした」と言って出ていくときには常連にはなりきれてない私にも「またいらっしゃい」と声を掛けてくれるのが嬉しい。そんなお店もあと一カ月半。私は今回の訪問を最後とした。残りの営業日は私以上の常連さんに食べていただきたい。もちろん、何年も食べてなかった人、思い入れのある人にも食べていただきたい。

お店データ

支那そば びぜん亭

支那そば びぜん亭

東京都千代田区富士見1-7-10(飯田橋)

このお店の他の一杯

    大崎裕史
    大崎裕史

    (株)ラーメンデータバンク取締役会長。日本ラーメン協会発起人の一人。東京ラーメンフェスタ実行委員長。1959年、ラーメンの地、会津生まれ。広告代理店勤務時代の1995年にラーメン情報サイト「東京のラーメン屋さん」を開設。2005年に株式会社ラーメンデータバンクを設立。2011年に取締役会長に就任。「自称日本一ラーメンを食べた男」(2024年6月末現在約14,000軒、約29,000杯実食)として雑誌やテレビに多数出演。著書に「無敵のラーメン論」(講談社新書)「日本ラーメン秘史」(日本経済新聞出版社)がある。